日めくり付箋カレンダーのジャンルを切り開いた「himekuri」シリーズを展開するケープランニングの木下さんと、そのデビューをクラウドファンディングで共にしたノウトの高木さん。「himekuri」を中心に良好な関係を築きつつ、それぞれの世界を突っ走っている両社の、改めましての対談です。新商品の情報もたっぷりお届けします。(聞き手~ハイモジモジ)
【プロフィール】
高木芳紀 1971年名古屋生まれ。金沢大学卒業後に興和株式会社に入社、繊維、IT、光学機器の営業職を経験。その後、興和時代の先輩の家業である渋谷の老舗文具店つばめやにて通販部門を中心に担当。2017年にのれん分けの形で名入れノベルティ部門を継承。ノベルティ研究所を設立。 2012年より文具朝活会を継続、だいたひかるさんと年4回文具祭りを主催。扶桑社『文房具屋さん大賞』審査員長。
木下良 紙卸(株)ケープランニング 印刷(株)カンベビジュアルを経営。紙の印刷の原価を使いオリジナル商品開発。日めくり付せんカレンダー「himekuri」2018日本文具大賞 機能部門優秀賞受賞。「1日1日を大切に」がコンセプト「himekuri」を展開。
ケープランニングって、どんな会社?
株式会社ケープランニングの木下です。紙卸の会社で、紙をいっぱい仕入れて印刷屋に売るのが本業です。そのケープランニングのお客さんにカンベビジュアルという印刷の会社があって、そこの社長が引退されるというので……
しました。紙と印刷、2つの会社になって「作ること」はできる。あとは「アイデアがない」ってことで、ネット上でデザインコンペを始めたのがメーカー業のきっかけです。
もう35年ぐらい。当時、父の代は出版(の売上げ)が良かったんですけど、出版って返本がある世界なんですよね。
――印刷したものが返本されるんですか?
いや、うちにはないんですけれど、うちが紙を出版社に売ります、出版社は本を取次に売ります、売ってお金をもらいます。で、半年後に「半分残りました」と言って返本されて、今度は出版社が取次に(差額を)払います。こういうことをやっているので、紙屋に対する支払いが遅いんです。いまだに「半年以上の手形」です。
みんな売れるか売れないか分からない本を何千冊も作るわけです。でも、1回やればお金になるんです。そうすると会社としては売り上げになるわけじゃないですか。で、銀行に「これだけ売れたんだ」「次も作るから」と言って、お金を借りて。こういう風にどんどんやるんです。
やっぱり本にも当たり外れがあるので、たまに当たればいいわけです。たぶんそれだけ。
問屋も強制的に配本したりして、お金を作る仕組みを作っているもんね。
だから本屋も(新刊を)入れるだけ入れて、並べてやるよというスタイルなわけです。だから、わーっと本棚にいっぱい並べるスタイルになっちゃう。去年、台湾に行ったんですけど、あっちはそういう文化はなくて、全部買い取りなんです。だから店舗は責任をもって売るし、ディスプレイがすごい。
それって文房具でも同じことが言えて、うちの
「himekuri」は全部平置きで売ってくれてました。ひとつの商品を説明するのに、いろいろなアイテムをまわりに置いて盛り立てる、みたいなディスプレイが全部なんです。やっぱり買い取りのお店は、一生懸命売ろうとしてくれますね。
ノウトって、どんな会社?
ノウトの高木です。2年前に独立して、前の会社から任せてもらったノベルティの仕事をしながら、新しい文具をいろいろ作ってます。あと、去年からかみさんが(社員として)入ったので、デザインの仕事もしていて。大きく3つですね、どれが中心ということもなく、よろず屋的に。
――木下さんとは「himekuri」でご一緒されてますね。
昨年にクラウドファンディングを一緒にさせてもらって以来ですね。
――高木さんから声をかけられたんですか。
「もうちょっと派手さがあったほうがいいんじゃないですか」って声をかけまして。
じゃあ一緒にやろうかって感じで。こんなこと(大きな反響)になると思わなかったですね。
去年とか、マスコミにすごい露出して。日本文具大賞を受賞したら、特にテレビで、ぶわーっと。
テレビは18社、雑誌は47社でした。大きいのも小さいのもいろいろあるんですけれど、一般誌もありましたし、週刊誌にも載りました。とくにテレビ(の反響)はすごかった。
日本テレビの「スッキリ」だったかな。あの番組、朝の8時台にやっているんですけれど、お昼過ぎまで注文が鳴りっぱなしで。
去年の10月から年末まで、毎週土日はいろいろなところに行って店頭販売をやっていたんですけれど、必ず「himekuri」目当てに来てくれる人がいました。Twitterをよく見られていて「知ってる人は知ってる」って感じで。
ハッシュタグもあると思います。(アカウントの)フォローもしてくれてるんじゃないですかね。
そうやって3ヶ月行脚されていたから(年末の)
文具女子博に出たとき、完全に実演販売士になってましたね、トークが。ちゃんとお客さんを掴んでたもんね。
毎週やってましたからね。でも一回、店頭に立つと分かりますよね、買いそうな人と買わない人。やっぱり文具女子博って売れやすいんです、お客さんは「買いに来てる」ので。でも、例えばショッピングモールで販売するときは、みんながこの商品を買いに来てるわけじゃない。あんな広い建物の一部分でやっていて、普通に歩いている人の足を止めて買ってもらうって、すごく難しいんです。ほぼ、運。
いかにアピールできたかが、ちゃんと表れますもんね。
「 1週間ごとに絵柄が変わる」って説明しても、なかなか分かってもらえない商品ですからね。めくっていかないと分からない。だからネット向きなのかもしれない。
――FRATに出展されるみなさんの商品、どこも説明しないと分からない商品ばかりで。
――高木さんは最初のクラウドファンディング以降も「himekuri」に関わっていらっしゃるんですか。
うちは一番シンプルでカラフルなやつ(colorkuri)を引き続きやらせてもらっていて。1年目、2年目とちょっと変わったんですけれど、品質向上のためにさらにまた変えて。
2020年版はテカテカした紙に変えます。時期によって水分が抜けちゃうときがあるので、それを防ぐためにコーティングした紙で作ります。
――定番でありつつ毎年変わるって、ビジネスとしては最強ですよね。
うちのはシンプルで、飽きられるのもあれなので、フォントをちょっとずつ変えてますね。
FRATでは、どんな新商品を?
―FRATで発表する新商品はありますか?
そうですね。マスキングテープのケースって(他にも)なくはないんですけれど、大体プラスチックとかで。このように紙でできていて、窓がついていて外から映えるものってないんです。
3,480円ですね。マスキングテープが40個ぐらい入ります。40個だと大体合計12,000円ぐらいになるので、12,000円のための3,480円のケース。
――テープは消耗品でも、箱は一生モノですもんね。
これも「himekuri」と一緒で、すごく工程が多くて、手作業が多いんです。マグネットが入っていたりして、中もブリキが入っていて結構しっかりしてるんです。
マスキングテープって、みんな複数持ってるじゃないですか。多い人だと100とか200とか。
――高木さんも新商品ありますか?
僕はもう、木下社長に媚びていますので(笑)、「himekuri」を貼る用の白いカレンダーを作りました。まだ試作ですけど。
市販のカレンダーに不満がある人、多いと思うんですよね。文字が黒で、土曜は青、日曜は赤で「かっこ悪いなあ」みたいな。だから「シュッとしたもの」が欲しい人もいるんじゃないかなと思って、遠くから見るともう真っ白い紙が貼ってあるだけのカレンダーを作っちゃおうと。評判良かったら、真っ黒のも作ろうかな。
――「himekuri」を貼っていって、だんだん完成していく感じもいいですよね。
「himekuri」をバレットジャーナルで使うと、貼っていくとノートが結構な厚さになっちゃうんです。ちょっと書きにくくなるから、こういう別の使い方を提案しようかなと思って。
そうか、そもそも(himekuriは7日分並べて)A4に収まるように作ってたんだった。
ちょっと悩みどころなのは、6週分(のマスが)必要なんですよね、カレンダーって。上下が空きがちになっちゃうので、どうしようかなって。
全部5週にするとか。でも月がまたいじゃうんですよね。
とにかく「himekuri」をコアに、サードパーティー的な感じの新商品を出します。
2020年版himekuriに新展開
「himekuri」の2020年版は8種類あるんです。今年までは4種類でしたが、8種類に増えます。
高木さんの「colorkuri」と、引き続き猫の柄もあるんですけれど、今度の猫は1週間ごとに全都道府県を旅していきます。
他にもコンペで決まったおみくじになる切手のデザインのものや、堤信子さんが本を出された
「つつみ紙コレクション」の画像を使ったものもあります。
全部で26社の文房具メーカーに許可をとって、たとえばトンボ鉛筆やキングジムの商品を1週ずつ描いてます。これにノートが付いてます。
その週になったら各メーカーがツイートしてくれますね。
1年間のうち53週あるので、2週間に1回は必ずどこかがしてくれるはず。
――名だたる企業がよく承認の壁を越えましたね。
あともうひとつは、伊佐知美さんという世界中を旅している女性の写真を使ったもの。1週間ごとにベトナムやミャンマー、ペルーのマチュピチュとかの写真が現れます。QRコードがある「旅のノート」付きで、その土地の情報が分かります。旅のエッセイを書く伊佐知美さんならではの。
見れるんです。あともうひとつはコンペからで、その日の気分を宇宙のような黒い台紙の座標に貼っていくと(自分だけの)銀河になる、っていう。明かりを消すと光るのあるじゃないですか、あの紙を使ったシールになってます。
FRATについて
――最後に、FRATへの意気込みを聞かせてください。
うちはもう本当に駆け出しのメーカーなので、いろいろなお客さんにちょっとでも知っていただきたいなと。小売店さんの知り合い、全然いないんです。バレットジャーナルに使える
「ノンブルノート」もあるので頑張らなきゃ。
――会場にはどういうバイヤーさんに来てもらいたいですか?
結局うちらがやっているのって、紙で、紙商品なので。書くことが大好きで、そこらへんをよく理解してくださってる方にご提案ができれば。やっぱりちゃんとファンが付いているお店がいいですよね。
メーカーとしても責任をもって作っているので、どういう風に使う商品なのかを理解して売ってほしいなと思いますね。あと「himekuri」ってローマ字の商品名で、世界を目指して作っているので、外をめがけて売って行きたいですね。
――その点、海外のバイヤーさんにも来てもらいたいですよね。
まず国内で売れれば、海外(の人気)も自然とついてくるのかなと。中身は全部日本のものなので、日本の良さを広めてもらえればなと思います。実際、台湾に行くとすごいんです。催事じゃなくて店頭で、全部売り切れてましたもん。みんなネットを見て(知って)るんですよね。
今回のFRATのテーマは「一緒に船に乗ろう」って感じでしたよね。すごくいいと思います。何年かすると、今までとは(ビジネスの)やり方が変わってくると思いますよ。(作る側と売る側が)お互いに考えていかないと生き残れませんから。
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