創業100年を誇る製本加工業の国宝社さんと、たしかな印刷技術を背景にプロダクトを発信している神戸派計画さん。「老舗」と「紙」という共通のバックボーンを持ちながら、果敢にオリジナル・ブランドを発信している両社から、第一線で活躍されている木村さん、樋口さんに登場いただきました。デジタル全盛のこの時代に、あえて紙を使う理由とは。興味深いトークが繰り広げられました。(聞き手:ハイモジモジ松岡)
【プロフィール】
木村秀継 1983年東京生まれ、東京育ち。日本大学卒業後、独立系IT企業へ入社。10年後退社し、親族経営する製本加工業を行う「株式会社 国宝社」へ入社。「人手間(ひとてま)」かけたものを作りたい気持ちから、自社ブランド「国宝堂」がスタート。2018年「板橋製品技術大賞 審査委員賞」受賞。
樋口香連 神戸出身。大学卒業後、惚れたフランス人を追って渡仏。パリでスタートアップのお弁当屋さんで店長をしながら大学生活を体験。帰国後、神戸派計画に出会い、紙の魅力と手を使って「書く」という行為の素晴らしさを再確認、シュッとした文具の販売に携わる。
国宝社ってどんな会社?
――まずは木村さんから自己紹介をお願いします。
木村秀継と申します。生まれは1983年で、東京生まれ東京育ち。製本加工をしている国宝社で役員をしています。もともとはIT企業に入社して、SEを10年間やってました。
――どんな会社だったんですか?
一部上場の会社で、業務系のシステムを作ることがほとんどで。入社理由は福利厚生に運動会があったからなんですよ。中高からずっとサッカーをやってたんで、いいなと思って。インテリじゃなく、泥くさい感じの会社でした。
――どんくさいじゃない、泥くさい(笑)
そこでプロジェクトリーダーやマネージャーをやって、10年ぐらい経って、さあ30歳を過ぎてどうするか、と。(人生のプランとして)30歳、40歳、50歳で「こうしよう」というのはあったんですけど、やっぱり(国宝社の)長男なんで「まあ、やるか」と。それが3~4年前ですね。
――いま会社は何代目でいらっしゃるんですか。
僕のいとこが42歳で社長をしているんですけど、5代目です。創業100年。
――創業100年! 神戸派計画さんは何年目ですか?
――歴史が長いもの同士ですね。
自分たちの事業を定義すると「伝えるのを支えて」なんですね。そもそも製本加工って、本の著者が読者に伝えたいことを何十万冊と作るのが僕らの仕事なんです。ただ、今度はメーカー業として自分たちが伝える側に立とうと。
5年後ぐらいにはまた違う、体験事業をしようと思っているんですけど、まずはこの5年で製本加工業とメーカー事業としっかりやっていこうと。
「人手間」と書いて「人の手間」という言葉を掲げてまして。デジタルはやっぱり便利だし、それはそれで良いのですが、人の心や感情がすべてだと私は思っているんです。それを残していきたいなと。
そうです。イメージとしては、紙のテーマパーク。子供が来て、うちの会社で一週間学べば何かできますよと。その授業の内容はこれから作らないといけないのですが。
この商品にもつながるのですが、和綴じというのは手作業でやるんですけど、まず子供が「やりたい」って言うんですね。その後、親御さんが手伝って、大人がハマる。うちの会社では和綴じや紙の加工のことを教えられるので、そこを教育ツールなんかに発展できたら楽しいなと思います。
神戸派計画ってどんなブランド?
――神戸派計画さんも自己紹介をお願いします。
名前に地名がある通り、神戸にある印刷会社が作ったブランドです。印刷自体は世の中からどんどん「要らない物」として無くなっていく方向で、そんな中で「私たちの存在意義って何やろう」と考えたとき、まだ使えてない技術や面白い事とかがいっぱいある。そういうものをプロダクトにすることで面白さを発見してもらう。印刷に興味を持ってもらえる、そんなブランドになれたらいいなと思ってます。
――色んな技術をお持ちだと?
(急きょ樋口さんの上司登場)
横からすいません。もともと70年前から活版印刷をメインでやってきた会社なんですが、その中で例えば「印刷に適する紙」とか「紙屋さんの新商品の情報」を貰ったりとか、この紙だったらこの印刷にした方がいいなあとか、色んなノウハウがたまっていくんですね。
そのノウハウを色んな企業さんに提案をするんですけど、予算取りってなかなか上手くいかないじゃないですか。例年通りのものをちょっとでも安く作って、早く作ってというお客さんが多い中で、新しい提案って通りにくい。
せっかく新しい知識とノウハウを組み合わせて、新しい価値を生もうとしてるわけですが、モノを作ろうとする人たちの心意気や志って、なんとなく弱くなっていくんですね、気持ちとして。それを避ける為にブランドを作って「自分たちが好きなことをやれる場所」があってもいいんじゃないかな、というのが代表の武部健也の考えなんです。
そうですね。例えば学校法人のクライアントでは、学校案内やシラバスを改訂しながら毎年作ってます。来年も多分そうなるでしょう、という世界です。企業さんのカタログも改訂はあるものの、基本的には毎年同じものを作っていて、既定路線でずっと同じものを作るところが多いです。
そんな中で、色んなところから色んなオーダーが来て「こんな組み合わせできるんちゃう?」と。神戸派計画さんのモノづくりは、既存の職人さんが結構関わってらっしゃるんですか。
そうですね。OEMで受ける仕事やオリジナルの商品にも言えることですけど、これまで培ってきたノウハウがあるので「現場の人間の意見も聞きながら」ですね。印刷の後工程は協力会社に外注することも多いですけど。
あくまで印刷会社なので。ただ、じゃあ製本はどうしてるかというと、長年一緒に組んでるパートナー企業があるので、そこにお願いしてます。「いやいやその仕様は無理でしょ」みたいに、逆に怒られることもある関係性ができてますね。
うちは書籍の製本がメインですね。本屋さん行けば、うちが製本した本は大体どこかにあります。
――それはハードカバー? 文庫本?
ハードカバー以外の仮製と言われるもので、月間200万冊程生産してます。
わざわざ紙を使う意味
――両社とも「製本」や「印刷」という本流がある中で、モノづくりに掛ける思いはどういう点にありますか?
世の中には色んな人たちがいますけど、大体の人がエンドユーザーじゃないですか。そういう人たちが身近に使う「文具」にアプローチできるというのが、方法としてすごい良くて。
アナログな紙をわざわざこの時代に使う意味ってなんだろうと考えたときに、人に伝える気持ちや自分がそのモノ自体を愛する感覚、そういうものを「必要とされないからやらない」んじゃなくて、発信できたらいいなって思ってます。
やっぱり紙に書いてほしいですよね、デジタルじゃなくてね。
神戸派計画さんの商品を拝見していると、うちとは全然世界観が違って、デイリーに使える感じですよね。うちのブランドは「和文具」に寄せているので、日常的に何かを書くというよりも「20歳までの成長記録を書きました」とか、そういう感じで「残してもらいたい」って思ってて。だから和紙は相性が良いなと。
「残してもらいたい」って、すごく分かります。紙に文字を刻んで物質的に残ることでまた違う価値が生まれる気がします。それとはまたちょっと違うんですが、うちでは
「GRAPHILO(グラフィーロ)」というオリジナルの紙を作ってるんです。ギリシャ語で「書く事を愛する」って意味なんですね。書いてる感触や、書く行為そのものを楽しむみたいな感じがあって。
そうなんです、インクの出方もすごく独特で。万年筆ってすぐに滲んだりして読めなくなりますけど、そういうのがなくて。インク溜まりが綺麗に出て、発色が良いいんです。
分かるなあ、その「時」自体がここにあるというか。記録は記憶を呼び起こすためのものだから、書いてほしいですよね。
私の場合は事業承継するにあたって、ブレちゃいけない「自分たちのコア」は何だろうって、ずっと考えたんですね。そんなとき、代々伝わってきた日記を目にして「この時、こういう思いでやってたんだ」とか「これだけしんどいことがあったんだ」とか、地元の話で「隣のけんちゃんは昔やんちゃ坊主だったのよ」とか「昔あそこは墓地だったのよ」とか。そういうことの積み重ねで、今の会社があるんだと思ったんですね。
言うには取るに足らない事だけど、自分が記録していたものを、何かのきっかけがあって後で誰かが何気なく見たりして「本当はこうだったんだ」とか「これは聞いた事なかった」とかって、間接的にですけど、結果的にすごく意義深いものになったりするかもしれないですね。
ブログに書いて「後で見て」って言ってもいいんですけど、子供が成人したときに「3歳ぐらいの時にイヤイヤ期が来て」とか「忙しいときも小学校で送り迎えして」とか「あなたを今までこういう風に育ててきたんですよ」って、写真と一緒に渡されたら、まあその後の人生そう反抗しねえだろうな、っていう(笑)。
FRATイチ押し商品
あれ、表紙が青の巻だったら、三方の小口も青で塗られてるんですよ。
あれ専用の特殊な機械を持ってるの、うちだけなんです。特許も取得してて。
何万冊って作らなくちゃいけないから、手で塗ってたら話にならないんで。あの技術を利用した商品を作ろうとしてます。
そうなんですね。楽しみです! 御社の商品をサイトでも見させてもらったんですけど、あの和綴じの糸のところがこうなってる…
和紙で、糸やし、すごい柔らかい感じやのに白の紙に赤い糸合わせてるのとか、エッジが効いててすごいカッコいいって思って。
あれ、自分でも作れるんですよ。ちなみに「使いたい」と「作りたい」だったら、どっちですか?
本当ですか! 最近、和綴じのワークショップを始めたんですよ。糸の色を変えたり、表紙を変えたり、表紙にあて布をしたりして、自分のオリジナルを作って持って帰れます。
――神戸派計画さんのイチ押しは?
商品いっぱいあるんですけど、2012年のグッドデザイン賞をもらった
「orissi(オリッシィ)」は端がギザギザのチェックリストなんです。買い物に行く前に「にんじん」とか「玉ねぎ」とか書いておいて、カゴに入れたらギザギザのところを折ると買い忘れがなくなります。
ケータイにもTODOリストやメモのアプリなんていっぱいあるし、わざわざアナログで書く必要ないかなって思ってたんですけど、意外と使ってみるとリストがパッと一目で見えて、カゴに入れたら折るっていうのが分かりやすいし、自分自身びっくりした商品です。
「自分がびっくりした」って、人にオススメしやすいですよね。
ほんとギザギザが付いてるだけなんですけど、それだけで新しい価値が生まれるのか、っていう。
あと
「iiro(イーロ)」ってシリーズなんですけど、ご覧の通りカラフルなノートです。今日はあえて黄色ばっかり持ってきたんですけど、表紙と罫線を同じ色で合わせて印刷してるんですね。罫線の色ってだいたいグレーとか黒っぽいのが多いと思うんですけど、いろんな色のペンを選ぶみたいに表紙と罫線の色のコーディネートを楽しめます。
そうですね。この蛍光を出すのがすごく難しくて、蛍光色は褪色しやすいので重ね刷りしています。
さすがに蛍光のはちょっと値段を上げて500円です。それ以外は360円。
これが300円台なんですか? はあ~、やさしいな。
――全部で100色あるんでしたっけ?
色は50色です。ドットとストライプで、中身は一緒なんですけど表紙が2種類。それで100SKUあります。
5mmもそうですけど、3mm、4mmあたりも結構。
小さめの方が人気なんですね。なるほどね、やっぱり(数ある中から)選べるのが楽しいんだろうな。
これ、私が個人的に使ってるやつです。3mmなんですけど、こうやって開くんです。
糸かがり製品で、背の部分が抜いてあって。一回使い始めると開きの良さが「これじゃないとイヤ」ってなってしまって。これが私の一番オススメの商品です。
FRATに臨むスタンス
FRAT自体が「新しい事を挑戦してみよう」みたいなところがあって面白いなと思うんですけど、文具を道具じゃなくて「楽しむためのもの」みたいにとらえてもらえるような提案ができるような場所になれたらいいなと思ってまして。
例えばですけど、「iiro」だったら「ファッションとして楽しい」とか「カラーコーディネートを楽しめます」とか「自分のパーソナルカラーに合わせて色を選べますとか、今までになかったようなモノの選び方を提案できたらなあって。
私の中でFRATは「交流会」のイメージなんですよ。だからとりあえず和綴じについては「木村さんに聞けばいいっしょ」みたいになるような交流ができればいいと思ってて。
とりあえず「和」とか「手作業」とか「製本」で何かあったら「国宝社さんに頼めば何か出てくるだろう」って思われる立ち位置。小売店さんからも「日本の企画」とか「海外旅行向け」の何かってなったらぜひご相談ください、そんなスタンスになればいいかな。って言いながら、当日めっちゃ売ってたら笑ってくださいね。
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