【クロストーク】東洋紡STC x バックストリートファクトリー
東洋紡の新素材、折れるポリエステルフィルム「オリエステル」を広めるべく奮闘されている東洋紡STCの鈴木さんと、繊細なレーザーカットで世の中の度肝を抜いた「千代切紙」で大ブレイクされたバックストリートファクトリーの臼井さん。どちらも「折り紙」という共通点を持ち、片や上場企業、片や町工場という立場の違いを交差させながら、モノづくりやFRATにかける思いをぶつけていただきました。(聞き手~ハイモジモジ松岡)
【プロフィール】
鈴木孝治 1968年大阪生まれ、神戸育ち。(話題の)岡山理科大学卒業後、東洋紡の化学系子会社に入社。技術、営業、広報を経て、再度営業に舞い戻る。2010年、親会社に吸収され東洋紡社員に。新素材の「オリエステル」を広めるため、休日返上で日本全国を飛び回り…、おいしいものを食べてます(笑)
臼井基樹 1974年生まれ、神奈川県出身。国立九州大学大学院中退。その後世界一周の旅に出て、様々な商材探しを行い、四国の石材商社で4年間半の丁稚奉公。31歳で独立起業しジュエリー製造メーカー、コンサルティング、輸入商社など事業を行う。東京荒川の町工場社長と新しいメーカー事業を起こすため(株)バックストリートファクトリーを設立し、町工場謹製の文具を開発発信している。お散歩番組はじめ多くのテレビが工場を取材に来る。
上場企業と町工場
――まずはお二方、自己紹介をお願いします。
株式会社バックストリートファクトリーの臼井と申します。東京の荒川区で町工場をやっています。荒川区は農家が一軒もない特殊な地域で、小さな町工場が3000社以上集まってるところなんですね。1階が工場、2階が住居みたいな形がすごく多くて、超小規模の専門的な力を持った町工場がいっぱいある場所なんです。うちもその中で、レーザー加工で紙を切ることに特化した事業をメインで展開してまして、町工場の技術を活かした新しいモノづくりをしています。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
東洋紡STCの鈴木です。東洋紡の100%出資で、業態的には商社になります。本社が素材や技術を持っていて、普通であればBtoBの商売なんですけど、フィルムでできた新しい素材を一般の方にも使っていただきたくて、「オリエステルおりがみ」を商品化しました。
東洋紡さんは一部上場の企業さんで、そこの子会社だとしても1件あたりの受注額が何十億とか、それこそ本体でいったら何千億って売り上げを立てる企業さんですよね。ちょっと失礼な話なんですけど、こういう取り組みって売り上げ貢献という意味では(社内で)目を背けられちゃう、みたいな感じではないですか?
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
おっしゃる通りです。ただ、素材としては新しいもの、世の中にないものですから、これからの可能性はあると思うんです。ですので関わる身としては「会社のひとつの柱になるように」という思いでやってます。
売り上げ重視というよりも、宣伝や広報活動といった部分も求められてるんですか?
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
そこは微妙なところで、認知度も売り上げもまだまだこれからというのが実情なんです。当然、民間企業なので売り上げを持っていきたいんですけど、まずは知ってもらって、触ってもらわなくちゃいけない。僕らの一番の仕事は「認知度を上げる」ことかなと。
東洋紡さんにはパブリックなメーカーというイメージがあって、例えばお客さんに自動車の大手メーカーさんや家具屋さんがいると。そういう企業さんがエンドユーザー向けの商品を手掛けることに興味があります。つまり会社の上の人たちに柔軟性があって、いろんなチャレンジをさせてくれる会社さんなのかなって。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
我々の仕事は社内ベンチャー的なところがあって、そういう流れになりつつあります。そもそもBtoC自体をやってないですから、やることなすこと全部新しいんですよ。これまでの社内のルールに則ってみると「それはダメ」「あれはダメ」って感じになるんですけど「そこはやらしてくださいよ」って通すこともあれば「それはちょっとやらしたれ」と言う上の方もいたりして。
なるほど。逆に僕たち小規模の町工場は、元請けの東洋紡さんに対して、下請けの下請け。バブルの頃は町工場全盛で、上からどんどん仕事が下りてきたけど「このままじゃヤバいんじゃないのか」というのが出発点としてあって。今まで何十年も仕事をくれてたところが倒産するかもしれない、仕事がストップしてこっちに回ってこないかもしれない。だから自分たちでより上流、つまりエンドユーザーの方に近づいて行かなければメーカーとして生き残っていけないんじゃないかと。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
結局、悩みや考え方は一緒だなと思いますね。偉そうな言い方になりますけれども、うちの会社も今までと同じことをしてたんじゃ、会社として成長しないと思うんですね。その中で、たまたま面白い商材が出てきた。僕らとしても、社内にひとつの部ができるまで育てていきたい。方向が違うにしても、たぶん考え方は一緒なんだと思います。
そうですね。僕たちは、どちらかというとモノを作ることはできるけれども、素材に飢えてるんですね。先ほど鈴木さんの名刺を見せてもらいましたけど、この素材がレーザーでちゃんと切れて、収縮しなくて、風呂敷みたいな包むものができないかなとか、普段からそんなことばっかり考えてて。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
我々は素材を持ってますし、技術もいっぱいあって、でもそれをうまく世に出せてない部分があるんですよね。それが世の中の役に立つ新しい商品になるなら、僕が扱う商品じゃなくても、それはそれでいいんじゃないかと思ってます。
例えば東洋紡さんに「素材辞典」があったら、僕は必ず見に行きます。来週から海外出張なんですけど、素材を探しに行く旅なんですよ。今までなかったものを違うカテゴリに応用できるものを探す旅。そういうの、すごく好きなんです。だから今日のご縁で、本格的にどんな素材をお持ちなのか聞きたいと思っているところです。
BSF 臼井
――素材ってニーズがあって作るものなんですか? それとも「こういうのを作ろう」と?
東洋紡STC 鈴木
当然ながら二通りあるんですが、この「オリエステル」のフィルムはプロダクトアウトです。よくペットボトルに巻いてるフィルムがありますよね。あれ、うちの会社が作ってるんですね。あれの新しいパターンを、と作っているうちに、たまたま「折れるフィルム」ができたんですね。
ペットボトルのフィルムは折れちゃいけないですもんね。形状記憶しなきゃいけない。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
それで、折れてはいけないのに折れるのができたので「折れるフィルム」として売られへんかなと。ただ「みんなすごいね」って言うけど、結局、何に使ったらいいか分からないわけですよ。そこで折り紙を作ってみたり、紙の代替ってことでブックカバーを作ってみたり。そのサンプルが非常に評判良かったので、商品として商売できるんじゃないかというのが始まりですね。
資本があるか自由があるか
うちのメンバーは5人いるんですけど、月に1回、制作会議をやってるんですね。今年のポイントとしては、自分たちの強みを活かす。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
ええ。
レーザーの専門家と糊付けの専門家が集まって付箋を作ってきて、違う分野に行こうかって話もしてたんですけど、いやいや待てと。やっぱり今年は強みを徹底的に活かして、十中八九失敗してもいいから1個当たったらそれでいける、って戦略で今年は行こうって話をしていて。その中で課題になってくるのが、やっぱり素材。中小企業の社長として、いつも頭の中にあるのは「大手さんはうちらと付き合ってくれないんじゃないか」って悩みがあって。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
はい。
例えばバルク何トンとか、1ロール5kgとか。そんな量じゃ手に入れられないなと思っちゃう部分があります。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
物にもよりますけど、今の時点でお出しできるものとしては、やっぱり最低4000mとか。
そうですよね。でも4000mもらっても「置く場所ねえよ」っていう(笑)
BSF 臼井
そういうところで足踏みします。今、ある研究者たちの研究材料をもとに、いろいろモノづくりしたいと思って声をかけてるんです。すると先生たちは「小ロットのものは作れても大ロットは作れないから工場が必要なんだ」と。でも、うちらも工場なんて作れないし小ロットでいいかな、みたいな。研究所はいい素材を持ってるけど量産できない悩みがある、こちらはアイデアはあるけど事業規模に乗らない。マッチングがすごく難しいなと。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
そうだと思います。
オリエステルのフィルムも実際、ロールで納品されるんですか?
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
基本的にはロールですね。実はこれ、フィルムを2枚重ねてるんですよ。透明なフィルムに印刷して、その上にもう1枚透明なフィルムを重ねて、インキ面が出ない安全設計なんです。
二重になってるんだ、すごいな。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
食品包装用の用途が多いので「安全には気を使いましょう」という方針があるわけです。
お弁当の包み紙とかに使えそうな感じですもんね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
(コストを)安くしようと思ったら、フィルム1枚に印刷するだけでいいんです。でもそれだと、小さいお子さんが口に入れたらインクが剥げたりしますので。
うちは逆に、機械化がほとんどされてない工場で、人が手差しで置いてます。例えば「千代切紙」はTwitterでリツイートが広がって、2か月ぐらい工場が閉まらずに、周りに怒られながらひたすら作り続けました。無在庫でもいけるところは強みだから多品種少量で作れるけど、人件費がかかる分、値段も上がってしまうジレンマがいつもあって。
BSF 臼井
――千代切紙って、どういうきっかけで生まれたんですか?
うちの生産部門の者が、ガルバノレーザーを導入したときに「どこまで細かく切れるのか」をチャレンジしたんですね。外部のデザイナーで切り絵作家がチームにいるので、切り絵の技術を活かして和柄や江戸小紋を極限まで彫り込んだらどうなるか、ってところで出来上がったんです。
BSF 臼井
――実験から生まれたんですね。
そうですね。うちの場合、必ず実験から商品が生まれてしまうので、最初は原価を考えてないんですよ。考えずに作って、後から「1枚3000円」とか言うから「全然コスト合わねえじゃねえかよ」みたいな。作る側がいつもそうなんで、いつもぶつかるところですね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
(笑)
常に技術部門と売る側のエンドユーザー部門と、プロダクトアウト、マーケットイン、そのせめぎ合いをいつもやってますね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
我々もそうですけど、なんぼ良いものでも高かったら売れないじゃないですか。やっぱり世の中、売れる価格帯というのが決まってるんですよね。それに合わせるためにどうするかって考え方をするんですけど、そうなると異常にロットを作らなくちゃいけなくなる。それを捌けるのかって不安はあるので、初めは利益を葬ってでも、まずはみんなに知ってもらおうと。回り出したら大量に作ればいいし、合わなかったらやめてもいいかな、って感じでスタートしてますね。
羨ましいです。うちだと一品一品がチャレンジ(笑)
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
そういう意味では僕も一緒です。社内ベンチャー的な感じなんで、要は「やめろ」って言われたら終わりなんです。
そうですよね。たぶんお互いにいいところと悪いところがあって、こちらは一個作ったものが売れないと、なかなか次へ行けないフットワークの鈍さがある。だから売れることを予測して作る。でも、十中八九じゃないんですよね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
必勝パターンはあると思うんですけどね。
今うちがチャレンジしているのはクラウドファンディング。事前にマーケット調査をする形で使ったりしてます。ただ、クラウドファンディングを利用する人たちは一般の店頭市場でモノを買わないような、一般の人たちよりもはるかに上流側にいる人たちが多くて。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
ええ。
買う目的が違うんです。新しいモノを作ってる人たちが支援したいとか、自分は前衛のところでものを見てる自負のある人たちがいる場所なので、実際に店頭で売れるものと結構タイムラグがあるというか。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
投資に近いですね。
おっしゃる通りです。一度クラウドファンディングでアップセルをやってみたんですよ、最初買ってくれた人に「あと2個買ってくれたら1個プレゼント」って。そしたら「ふざけんな」と怒られたんです。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
(笑)
「そんな思いで支援してるわけじゃありません」みたいな。ただ、僕たちのような中小企業の強みは、致命傷を負わない失敗をたくさんできるところ。思いついたら試作ができるのは良いところですね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
羨ましいですね。
今日のトークのポイントは、お互いに羨ましいところがあることですね。うちは資本がないけど自由がある、御社の場合は資本があるけれど自由裁量が限られる。でも、その中でもすごく理解力のある方たちが上にいる。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
そうですね、幸運なことに。
FRATにはどんな商品を?
うちはFRATで新商品を2つ出す予定です。音楽にまつわる付箋で、ベートベンやモーツアルト、シューベルトを切り絵でできないかと試作してます。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
面白いですね。
今度お札が変わるじゃないですか。例えば渋沢栄一さんをデフォルメしてみたり、坂本龍馬とか世界の偉人付箋みたいなマーケットがないので、ちょっとやってみようかなって。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
渋沢栄一だったら、うちの会社に売れるかもしれないです。創業者が渋沢栄一ですので。
そうですよね! 東洋紡さん、もとは東洋紡績。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
昔の大阪紡績と三重紡績が合併して東洋紡績になりましたね。
渋沢栄一が大好きなんです。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
そうなんですか。
生家に行ったり、伝記や『論語と算盤』も読んで、ああいう経営者になりたいなって思うんですけど、なかなか中小から抜け出せない(笑)
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
渋沢栄一版ができたら、うちの広報に配りますよ。
御社の「オリエステルおりがみ」も、絵柄を趣味趣向に寄せていくとマーケットに入りやすいですよね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
ゴジラやエヴァンゲリオンのバージョンはありますね。ゴジラは地上波で映画が放送される度に売れますし、エヴァもいまだに根強いファンがいて。幸運なことに2019年はどっちも映画がリメイクされますので、今度また(新しいバージョンを)出すんですよね。あとはみなさんが好むような伝統柄であったり、ガラス系であったり、あとはホログラムとか電車とか。
電車は面白いですよね。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
うちは今回のFRATではネット限定で販売していた桜柄を出します。透明をベースにしながら色がピンクと金で、普通は15cm角だけなのを小さいフィルムも一緒に入れようかと。あと、おそらく間に合うと思うんですけど、2件ほど新しいデザインを出そうと思ってます。
あと、うちは地方の一番店さん向けにオリジナルのものを作る企画を考えてます。例えば福岡の方であれば福岡に関係する柄であったり、ご当地系のオリジナルをうちの技術を使って、そのお店でしか売ってないものを作るとか。小ロット生産が得意なので、FRATで「オリジナル作りません?」って声がけをさせてもらいたいなと。
BSF 臼井
FRATにかける思いは?
東洋紡STC 鈴木
文具を愛する人たちがFRATに集まるので、そういう人たちに知っていただいて、そこからの広がりを期待したいですね。あとは世界中から来られるイメージがあるので、海外の人にも見ていただきたい。今まで知ってる折り紙とは全然違うものだってことを、まずはコアな人たちにじっくりお話させてもらいたいなと思っています。
今回メーカーが26社も集まってやれることに意義を感じてます。年に何回かでも会った時に「こういうことやってるよ」とか、すごく励みになっていて、ライバルでありながら同じ方向を向いているなと。小さいところから大きいところを目指す人たちがいっぱいいる場所に参画できるところが大きな魅力かな。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
ええ。
ひとつ考えたのは、例えばお土産物として、御社の「オリエステルおりがみ」とうちの「千代切紙」で、完成品を売るのはありかなと。空港や浅草のお土産屋さんで、1個600円とか700円ぐらいで展示物として売る。
BSF 臼井
東洋紡STC 鈴木
ありだと思います。外国の方は折れないから、折ったものが欲しいんですよね。
そういうコラボレーションしたいですね。
BSF 臼井